2025/10/16 05:31

手術後の社会復帰前日、リハビリを兼ねて訪れたギャラリーで出会った一枚の写真。
写真は複製できるはずなのに、その一枚は唯一になる。
アートを買うという体験の記録です。

手術を終えてしばらく療養し明日から仕事復帰というタイミング。
リハビリを兼ねてギャラリーをまわることにした。

看板が出ていないもののギャラリーは室内の明かりが見えた。
休みのようだったが奥からスタッフの方が出てきて声をかけてくれた。


壁に並ぶものはシンプルな作品。
植物が写っている。けれど、何の植物なのかは分からない。
フィルム写真が少なくなっている中で、作家はさらに手作業で感光材を調合し
印画紙を一から作っているという。


その作品はガムプリント(※)によるもので、
光の角度によって言われないと気づかないほどの細かな輝きが浮かぶ。


この作家はギャラリーで長年にわたって作品を発表してきたという。
決まったペースではなく、ご自身の制作のタイミングで発表を行っているそうだ。
そうした姿勢にも惹かれた。


作品そのものも余計な要素を排し植物をミニマルに表現している。
表面的な静けさでは計れない思考と時間が積み重なっているよう。




写真は本来、複製できることが特徴だ。
けれどこの作品は同じものを再現できない一点もの(unique)だった。
印画紙の質感や化学反応のわずかな差が世界にひとつだけの像をつくっている。
「写真なのにuniqueなの?」という意外性も魅力のひとつだった。


どこかで頼りたい気持ちがあったのかもしれない。
誰かの手で作られた確かなものに現実との接点を見いだしたかった。


アートを買う理由は人それぞれだ。
部屋の雰囲気を変えたい人、作家を応援したい人、将来的な価値を考える人。
どれも正しい。
自分の場合は社会復帰の一歩として
そして長く関わってきた写真という世界への小さな恩返しのような気持ちでこの作品を選んだ部分もある。


この作家と会ったことはない。
どこかで会えるかもしれないし
たとえ会うことがなかったとしても想像の中で交流できる気がしている。



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※ ガムプリント
顔料とアラビアゴム、感光剤を混ぜたものを紙に塗り、露光と現像を繰り返して画像を定着させる。
絵画のような独特の質感に仕上がり、19世紀末から1920年代の「ピクトリアリズム(絵画主義写真)」の中心的な技法の一つ。



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